Vol.7 ECCO HQ

スタイリッシュなデザインと機能性を高次元で融合することで、ワールドワイドで高い評価を得ているシューズブランドのECCO。これまでに1,000足を超えるシューズを履いてきたフリージャーナリストの南井正弘氏が、そんなECCOのシューズを実際に履いてその魅力を紹介する”style and comfort”。第7回は特別編として、デンマークにあるECCO本社を訪れたときのことをレポートします。

これまで数々のシューズブランドやスポーツブランドの本社を訪れてきました。そして、実際にプロダクトをデザインするデザイナー、マーケティングを担当するマーケティング ディレクターetc.といった人々と話をすると、それまでよりもブランドやプロダクトに対する理解度がより一層深まりました。それだけに今回デンマークのECCO本社を訪れることは本当に楽しみでした。まず向かったのは開発部門のあるデンマーク南部の田舎町トゥナー。田園風景が広がるなかに突如近代的な建物が現われますが、それがECCOのデザインセンター。

そこで最初に会ったのが、昨年クリエイティブディレクターに就任したリアム・メイハーです。彼はECCOに入社する前はアムステルダムを拠点に、デニムに新たな魅力を吹き込むことにより、ワールドワイドで高い評価を得ているデニムブランドのデンハムでデザイン&ブランド ディレクターとして活躍していました。またスノーボードのリーディングブランドであるバートンに籍を置いたことも。どちらかいうとコンサバティブな印象だったECCOというブランドと、エクストリームな彼のキャリアがどのように融合していくかというのも興味深いところです。

彼が話してくれたなかで最も印象的だったのが、製品開発のアプローチの手法について。「ECCOというブランドは常に進化することを意識しています。シューズの世界にはデザートブーツを始めとして、誰もが知っているプロダクトがあると思いますが、ECCOはこういったデザインをリスペクトしつつ、より高品質なアッパーレザーを使用したり、人間の足型を忠実に再現した底面が平面ではなく立体的なラスト(木型)を用いたり、フルイドフォルムと呼ばれる独自のダイレクトインジェクション製法を採用することによって、オリジナルよりも遥かに履き心地のよいシューズを完成させてきました」と語ってくれました

実際に自分自身がECCOのクレープトレイを履いて、そのクラシックな見た目からは想像できない快適性の高さを保持していることに驚きましたが、彼のコメントを聞いて、その理由がわかりました。既存のデザインやスペックを真似ただけでは単なるコピーですが、ECCOは完成度の高いシューズデザインをオマージュしつつ、機能性をオリジナルよりも大きく向上させているところが本当に凄いと思います。

次に話を聞くことができたのはECCOのデザイン部門を統括するニキ・テステンセンで、五世代に渡って靴づくりに携わってきた家系の出身です。以前からECCOというブランドに注目してきた人は気付いていると思いますが、ここ数年ECCOのシューズはかつてのベーシック&シンプルなデザインだけでなく、EXOSTRIKE(エキソストライク)のようにエッジの効いた主張のあるデザインのシューズも数多く登場しています。その立役者のひとりが彼なのです。

「以前はメンズとウイメンズでデザインチームが分かれていましたが、現在は性別ではなく、プロジェクト毎に担当するようになりました。そのほうが、プロダクトコンセプトやデザインテイストなどの統一性がとれますからね」と語る彼のオフィスはサンプルや素材が乱雑に置かれていて、昭和の文豪、坂口安吾の書斎のようでしたが「散らかっているようにみえて、何がどこにあるかはわかっているんですよ。こんな感じのほうがインスピレーションが湧くのです(笑)」とのこと。

これまでの経歴で1番の代表作を教えて欲しいと聞いたところ、「どのシューズも自分の子供のような存在だから1足を選ぶことはできないですよ。それぞれのシューズに思い入れがありますからね」と語り、その言葉からは1足、1足情熱を込めてデザインしていることが理解できました。COOLシリーズ、エクソストライクを始めとした、スカンジナビアンデザインと機能性を高次元で融合したECCOのシューズは、こんな魅力ある人柄のデザイナーが生み出していたのです。

翌日はデンマーク内にあるもうひとつの拠点であるブレデブロへ。こちらは創業の地であり、本社機能、営業部門などと、ECCOのこれまでの軌跡を現代に伝えるミュージアムがあります。ミュージアムには1963年の創業以来、これまでリリースされてきたキーアイテムとトピックスがディスプレイされており、ECCOだけでなく、シューズに興味のある人には本当に楽しいスポットだと思います。1978年にリリースされたJOKE(ジョーク)などは現代に復刻しても古さを感じさせないほど完成度の高いデザインだと思いますし、ECCOが躍進する原動力となった初代のSOFT(ソフト)を久しぶりに見ることができたのは個人的にも嬉しかったですね。

そして、このブレデブロオフィスにはサンプル工場もあり、製品化のためのウェアリングテストなどもこちらが一部担当しているとのこと。ランニングシューズならランナー、サッカースパイクならサッカープレーヤーがテスターになるのですが、「ECCOのようなブランドの場合、どんな人がテスターになるのですか?」と質問したところ、「歩く距離の長い警察官やゴミの収集人などです!」という答えが返ってきました。正直言うと社内のスタッフでウェアリングテストは済ませていると思ったので、こんな部分でもECCOというブランドのシューズ造りに対する真摯な姿勢を垣間見ることができました。

南井 正弘 : フリージャーナリスト

1966年愛知県西尾市生まれ。スポーツシューズブランドのプロダクト担当として10年勤務後ライターに転身。
「Running Style」「フイナム」「Number Do」「モノマガジン」「デジモノステーション」「SHOES MASTER」を始めとした雑誌やウェブ媒体においてスポーツシューズ、スポーツアパレル、ドレスシューズに関する記事を中心に執筆しており、ランニングギアマガジン&ランニング関連ポータルサイトの「Runners Pulse」の編集長も務める。主な著書に「スニーカースタイル」「NIKE AIR BOOK」などがある。「楽しく走る!」をモットーに、ほぼ毎日走るファンランナー。ベストタイムはフルマラソンが3時間52分00秒、ハーフマラソンが1時間38分55秒。