Vol.8 ECCO LEATHER

スタイリッシュなデザインと機能性を高次元で融合することで、ワールドワイドで高い評価を得ているシューズブランドのECCO。これまでに1,000足を超えるシューズを履いてきたフリージャーナリストの南井正弘氏が、そんなECCOのシューズを実際に履いてその魅力を紹介する”style and comfort”。第8回は前回に引き続き特別編として、オランダはアムステルダム郊外にあるECCO レザーを訪れたときのことをレポートします。

ECCOというブランドの強みはこれまでのコラムでも紹介してきましたが、なんといっても快適な履き心地が真っ先に挙げられるでしょう。そしてその履き心地の良さをラスト(木型)とともに支える重要な要素が、アッパーに使用される天然皮革です。

天然皮革の世界は奥が深く、どの動物の原皮を使用したか?その動物は成獣なのか子供なのか?どのようなタンニング(鞣しの工程)を施したか?着色、コーティング、型押しなどの加工法は?柔軟性や引張強度など品質はどのレベルか?といったことによって、細かく分類されます。そしてECCOはECCOレザーというレザー生産会社をグループ内に有しており、靴製造において最も重要なパーツであるレザーを自社生産している数少ないシューズブランドとして知られています。

現在ECCOレザーの拠点はインドネシア、タイ、中国へとアジア地域にも拡大していますが、アムステルダムから100kmほど離れたオランダのドンヘンが、開発を始めとしたあらゆる意味で中核を成しています。今回オランダのECCOレザーを訪れて感じたのは、ただ単に天然皮革を製造しているのでなく、この工場から世界屈指の品質のレザーが生み出されているということ。このレベルのレザーを製造することのできる工場は、世界でも本当に数少なく、それを自社のシューズに使用できるということは、店頭において本当に有利になります。

例えば同じ3万円の靴でもECCOと他ブランドではアッパーに使用しているレザーの質は2ランクほど違うと言われていますが、これはシューズやレザーに詳しくない一般的なユーザーでもわかるレベルの差異です。言い方を変えると他のブランドであれば5万円~10万円以上するシューズに使われるようなレザーを、ECCOでは2万円台のシューズに使っていることも珍しくないのです。

品質の優れたレザーを自社供給できるということは調達コストが自ずと安くなるので。外部との商取引であたりまえとされるレベルの利益を上乗せすることはないので、こういったことが実現可能ですが、さらに革新的なレザーが完成した際には、最初にそれを使用できるというのも大きなアドバンテージになります。

現在ECCOレザーはECCOシューズへの天然皮革の供給だけでなく、外部へのレザーの販売が全体の約50%となっており、アップルを始めとした著名なブランドが同社のレザーを使用しています。そしてECCOレザーの凄いところは、ただ単に既存のレザーを製造するだけでなく、新たな種類のレザーをクリエイトしている点。最近では透明レザーのアパリシオン、熱に反応して色が変わるクロマタファーといったレザーがその代表です。

そしてこれらスペシャルなレザーの開発において重要な役割を果たしているのが、ECCOレザーにおいてイノベーションスペシャリストの役職に就いているマキス・サッペルグロウです。

彼は日々レザーの可能性を拡大したいと願っているレザー業界では著名な人物で、「新たなレザーをクリエイトする際には世の中のありとあらゆるものからインスピレーションを受けます。例えば自然界とか、ファッション雑誌だとか。クライアントとは何度も議論を重ねますが、思った通りのレザーが完成したときは本当に嬉しいですね。困難であればあるほど、出来上がったときの喜びは大きいのです。

最近大きな話題となっている透明レザーのアパリシオンは、古代エジプトのパピルスからインスピレーションを受けましたが、透明な状態で柔軟さを保つことは本当に難しく、25年間ECCOで働いてきましたが、これが自分にとっての最も大きなチャレンジであり、アパリシオンを完成させたことが一番嬉しかったですね。

今後もクライアントから突拍子もないアイデアを提案されることもあるでしょうが、それをカタチにすることは本当に楽しいのです」と、製品開発の困難さえも楽しんで、ポジティブに捉えるところは、勤勉かつ楽観主義者が多いギリシャ人らしいところ。

彼のようなスタッフがECCOレザーにいるかぎり、シューズ業界だけでなく、ファッション業界関係者、そしてユーザーをもアッと言わせる新たなレザーをクリエイトしてくれそうですね。今からそれが楽しみです。

南井 正弘 : フリージャーナリスト

1966年愛知県西尾市生まれ。スポーツシューズブランドのプロダクト担当として10年勤務後ライターに転身。
「Running Style」「フイナム」「Number Do」「モノマガジン」「デジモノステーション」「SHOES MASTER」を始めとした雑誌やウェブ媒体においてスポーツシューズ、スポーツアパレル、ドレスシューズに関する記事を中心に執筆しており、ランニングギアマガジン&ランニング関連ポータルサイトの「Runners Pulse」の編集長も務める。主な著書に「スニーカースタイル」「NIKE AIR BOOK」などがある。「楽しく走る!」をモットーに、ほぼ毎日走るファンランナー。ベストタイムはフルマラソンが3時間52分00秒、ハーフマラソンが1時間38分55秒。