Vol.11 ECCO Portugal Factory

スタイリッシュなデザインと機能性を高次元で融合することで、ワールドワイドで高い評価を得ているシューズブランドのECCO。これまでに1000足を超えるシューズを履いてきたフリージャーナリストの南井正弘氏が、そんなECCOのシューズを実際に履いてその魅力を紹介する ” style and comfort ” 。第11回は特別編として、ポルトガルの世界遺産の街ポルト郊外にある。ECCOのポルトガル工場を訪れたときのことをレポートします。

2018年現在、他のシューズブランドのほとんどが契約工場で製品を生産しているのに対し、ECCOはすべてのシューズを自社工場で生産しています。工場はスロバキア、インドネシア、タイ、中国、そして今回訪れたポルトガルで操業しており、どの工場もECCOの厳しい基準をクリアし、その製造レベルに差はありません。これまで日本、韓国、台湾、タイ、インドネシア、イタリアのスポーツシューズ、カジュアルシューズ工場を訪問しましたが、ポルトガルのシューズ工場には行ったことがなかったので、とても楽しみでした。

予備知識としては、ポルトガルの製靴工場は、スペインのそれとともに、どちらかいうと廉価なカジュアルシューズやドレスシューズの生産を得意としていて、実際に日本のセレクトショップのオリジナルデッキシューズなどはポルトガル製やスペイン製がチラホラ見られました。それだけに、賃金を抑えた労働集約型か、コストを抑えるために機械化が進んでいるだろうということは想像ができました。しかしながらECCOのポルトガル工場は自分の想像を遥かに超越したレベルの高い工場だったのです。

工場に到着してまず見学できたのはステッチングのエリア。アジアエリアでアッパーの縫製を行い、最終的なアッセンブルをポルトガル工場で行うことが一般的らしいですが、サンプルや一部製品に関しては、アッパーもこちらの工場で縫製しているとのこと。この道ウン十年の熟練工によるミシンの扱いは見事。あっという間に皮革を縫い合わせ、アッパーをカタチ作っていきます。

次に見学したのは、ECCOのラインアップでは上位に位置するドレスシューズVITRUSのカラーリングとポリッシング。こちらも手慣れた手付きでシューズが深みのある独特なカラーリングへと変化させていきます。このとき思ったのが、1足にかける時間がかなり長いということ。自分が予想した3倍以上の手間を1足に対して費やしていたのです。この作業工程を考えると、VITRUSの価格は本当にリーズナブルだと思いました。ここまでは女性の熟練工による労働集約型の工程でしたが、次に訪れたアッパーとソール部分を一体化させる工程では最新の製靴マシンが活躍していました。

休憩を挟んでダイレクトインジェクションによるアッパーとソール一体化の工程を見学しましたが、ダイレクトインジェクションとは、溶かしたポリウレタン(合成樹脂の一種)を金型に流し込み、足を入れるアッパー部分とソール部分を一体化させる作業になります。今から30年近く前に日本でダイレクトインジェクションの製造工程を見学したことはありますが、同じドイツ製の機械でも性能は大幅にアップしていました。シューズ業界の常識としては同じモデル、カラーのシューズをまとめて製造することがあたりまえなのですが、ECCOのポルトガル工場では多種多様なシューズを、ダイレクトインジェクションにより、バラバラに生産していたのです。これは必要なモデルの必要なカラーとサイズだけをつくることにも対応し、ECCO独自のノウハウがあるからこそ、このような特殊な製造方法が可能となっているとのことでした。これならサイズが欠けたりした場合のフォローもスピーディですよね。

このダイレクトインジェクションの工程は、前述の縫製やカラーリングとポリッシングの部分とは異なり、オートメーション化が進み、配置される従業員の数は少なく、縫製部門の主役が女性なのに対して、こちらでは男性が主役でした。社外秘の技術が多数あり、いくつかの質問には答えてもらえませんでしたが、ECCOのダイレクトインジェクション技術は世界トップレベルにあることは間違いないでしょう。

見学の合間には自らミシンを使って皮革製のキーホルダーを縫いましたが、直線部分は簡単だったものの、曲線部分は何度もやり直しました。スポーツシューズブランドに勤務していた時代、工場の責任者に対してアッパー部分のステッチミスをきつく責めたことが何度もありましたが、曲線をミシンで縫うことがこんなに難しいものとは思いもしませんでした。初老の女性が丁寧に教えてくれたおかげでキーホルダーは完成しましたが、これは自分にとって大切な宝物であり、ECCOのポルトガル工場を訪れた思い出の品となりました。

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シューズのデザインが誕生するデンマーク本社

素材の原点であるレザーのタナリー

 

南井 正弘 : フリージャーナリスト

1966年愛知県西尾市生まれ。スポーツシューズブランドのプロダクト担当として10年勤務後ライターに転身。
「Running Style」「フイナム」「Number Do」「モノマガジン」「デジモノステーション」「SHOES MASTER」を始めとした雑誌やウェブ媒体においてスポーツシューズ、スポーツアパレル、ドレスシューズに関する記事を中心に執筆しており、ランニングギアマガジン&ランニング関連ポータルサイトの「Runners Pulse」の編集長も務める。主な著書に「スニーカースタイル」「NIKE AIR BOOK」などがある。「楽しく走る!」をモットーに、ほぼ毎日走るファンランナー。ベストタイムはフルマラソンが3時間52分00秒、ハーフマラソンが1時間38分55秒。